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こういう映画を作る必要のない世の中であって欲しい、と痛切に思わずにはいられない「サウルの息子」。
第二次世界大戦下の欧州で行われたユダヤ人絶滅を目指したホロコーストはナチス・ドイツによる人類史上最大の犯罪として記憶されています。
この事件をサウルというハンガリー系ユダヤ人の男の目を通して描くのが「サウルの息子」。ハンガリーの映画です。
2015年度のカンヌ国際映画祭でパルムドールに次ぐグランプリを受賞。
またアカデミー賞最優秀外国語映画賞を獲得したほか、各国で非常に高い評価を得ています。
重くて暗い映画ですが、この重大な事件を見つめることで私たちはホロコーストの貴重な追体験をすることになります。
ミステリータッチを含み、しかし視点を外さない見事な演出を読み解きながら、この映画の主張と背景を考えていきましょう。
ラストの雑木林のロングショットは何を語るのでしょうか、ラースロー監督の想いはどこにあるのでしょうか。
ゾンダーコマンドとは何か
ユダヤ人処理を強制されたユダヤ人
この映画を鑑賞し理解する上で欠かせないのが「ゾンダーコマンド」という組織です。
ドイツ語での一般名詞としては「ゾンダー=特別の」「コマンド=部隊」ですから、「特別部隊」とでもいうのでしょう。
しかし、ホロコーストにおいての「ゾンダーコマンド」には特別な意味がありました。
ナチス・ドイツはアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所などユダヤ人絶滅施設では自らの手を汚すのを嫌いました。
そこで、強制収容したユダヤ人の中から「絶滅処理」を担当するユダヤ人を選抜しました。彼らが「ゾンダーコマンド」と呼ばれていたのです。
彼らとて最後までは生きられない運命なのでした。
映画冒頭で示されるゾンダーコマンドの仕事は、ユダヤ人の絶望的な状況(収容される側、ゾンダーコマンド側どちらも)を一筆書きのように一気に描きます。
息ができないような、目を背けたくなるような光景が長回しの映像の中に繰り広げられます。
映像の工夫
残酷で苛烈な映像をどうするか
ホロコーストを描く上で、どうしても目を背けたくなるような光景を描かなくてはなりません。
ネメシュ・ラースロー監督はどういう工夫をしたのでしょう。
まず冒頭のシークエンスで分かるのですが、「アップの多用」と「背景のぼかし」。
広い画を使うとどうしても強制収容所で繰り広げられる残虐な光景を映像化せざるをえなくなります。
ラースロー監督はメイキング画像からも分かるのですが、被写体とキャメラの距離を50センチほどまで接近させました。
そのことで捉えた人物の表情をしっかり表現出来た上に、彼の背後の残虐な光景をボカす効果を生みました。
一方で背景にあるアウトフォーカスされた光景は何をしているか、されているかはしっかりと分かるのです。