こうした実在の人物を使い、衣装やセットなどの時代考証にも優れた、事実に基づいた作りはストーリーにリアリティを与えることに成功しています。
またオスカー撮影賞に輝いた撮影監督ヴィットリオ・ストラーロは、「地獄の黙示録」と「ラスト・エンペラー」でもオスカーを獲得した名手。
彼の描き出す世界は手持ちカメラと固定カメラの使い分け、手前の小道具を上手く使ったナメの構図での奥行きの出し方が魅力の一つになっています。
また被写界深度をシーンによって変化させ背景のボケ具合とパンフォーカスにより意味合いを引き出しているところも見どころです。
過酷なロシアのシーンはフィンランド、スウェーデン、スペインにロケし、リアリズムへの拘りを感じさせます。
妻ルイーズ=ダイアン・キートンの存在
多感なリードの愛情を受け止めた妻ルイーズ。彼女を演じたダイアン・キートン(アカデミー賞主演女優賞ノミネート)の演技も素晴らしいものです。
自らも社会主義に共鳴するジャーナリスト志望の女性(後に記者になる)として当時としては珍しかったであろう芯のある女性活動家を好演しています。
波乱万丈の夫を支えつつ、自らの価値観を追求する強い女性はダイアン・キートンにまことに似合っているといえるでしょう。
一方、ルイーズの友人で無政府主義者のエマ(モーリン・ステイプルトン)と劇作家E・オニール(ジャック・ニコルソン)の存在も欠かせない役どころです。
この二人の存在はとかくリードとルイーズの世界にまとまりがちなところに広がりを出し、主人公二人の愛情の世界に厚みを加える味わいを出しています。
モーリン・ステイプルトンは本作の演技でオスカー助演女優賞を獲得しました。
命を縮めた最後の演説行
二人でアメリカに帰りたい
物語の最終盤で、革命が進行するロシアではたちまち内部での思想闘争が始まり、リードが理想としていた社会主義の姿が見えづらくなっていきます。
そこでリードは世界革命を目指すコミンテルンに身を投じ、病を押して中東に革命思想を説く旅に出ます。
しかしそこでもコミンテルン幹部に勝手に原稿を書き直されるという事件が起き、なおかつ列車が襲撃されてしまいます。
リードはあくまでも自分が理想とした社会主義・共産主義を夢見ていたのです。
決死の思いで書き上げた「世界を揺るがした10日間」でもアメリカは動かず、自ら率いた共産党も分裂。再びロシアに来てみれば更に理想は遠くに。
自分の理想はどこにあるのか、実現は出来るのか。リードの心は見果てぬ夢の中、暗闇の中を徘徊するような感じだったのでしょう。
だからラストに再会出来たルイーズに、二人でまたニューヨークに帰りたいと願ったのでしょう。
まだ32歳。ルイーズと二人なら再起を果たして何かが出来るのでは、と夢の向こうに想いを飛ばしていたに違いありません。
理想を掲げその実現に共に歩むルイーズという伴侶を得て、ジャーナリストとして優れた著作をものしたリード。
しかし、「理想の革命」の実現は困難なものでした。彼の夢は見果てぬものに終わったのです。
ソヴィエト連邦が瓦解し社会主義を捨てた未来を知ったとしたらリードは何を思ったのでしょうか?