このミカの現実的なキャラは、ホームムービー形式のこの映画の設定にも一役買っています。
ミカはまたアメリカ人男性のステロタイプだといえます。彼の言動は一貫してマッチョな合理主義者です。
ケイティが霊能士を呼ぶと株価の変動は分かるのかとからかい、夜中に怪奇音がするとアメフト選手なみの勢いで現場に突撃します。
オカルトを徹底して信じないミカはホラー映画には最高の導き手になります。
そしてそんな彼がさまざまな怪奇現象を体験することで、多くの鑑賞者がそれをリアルに感じることになるのです。
2つの大きな短所
本作は前評判の異様な高さから日本では批判を集めた映画でもあります。2つの短所を見てゆきましょう。
舞台設定を台無しにする映画的な演出
映画は全編ミカの家の中であり、完全ホームムービーの体裁を取っています。
またミカとケイティが本物のカップルにしか見えない素晴らしい演技を披露します。
そのためウソだと知っていても現実であるかのように錯覚させられます。前半はほとんど何も起こらないので退屈だという批判が多くあります。
しかしその何気ない冗長なホームムービー場面があるからこそ、後の怪奇現象にリアリティが出るのです。
一方で映画の後半にあからさまな映画的演出が出てきます。
降霊術に使う文字盤・ウィジャボードが自然発火する。また屋根裏でケイティの幼少期の写真が見つかる。
こういったものはあまりに理にかなっているので白けます。そこで多くの人は、ああやっぱり映画なんだと思わされてしまいます。
わけの分からない怪奇現象にだけ絞っていれば、もっと恐くなったのではないでしょうか。
ホラー映画のご都合展開
筋にも大きな穴があります。後半、室内の怪奇現象がエスカレートし、ミカもケイティも我慢の限界に達します。
それでも2人は家に留まりました。多くの人は霊能士に悪魔祓いしてもらうまで知人宅やホテルに泊まればいいのではと思ったでしょう。
ケイティが悪魔につかれているにしても、一度くらいはどこか別の場所に行って大丈夫かどうか試してみるべきだったでしょう。
何があっても同じ家に留まり続ける2人の姿は、自ら悪魔の犠牲になりたいような印象を与えます。
そして、それはまさにホラー映画によくあるご都合展開なのです。
成功の最大の原動力はアメリカン・ドリームにあり
『パラノーマル・アクティビティ』の大ヒットは異例中の異例だといえます。
特殊なエフェクトがありながらも、この映画には今の時代PC1つあれば誰でも作れるようなホームムービー感にあふれています。
それが世界的な大ヒット作になり、かのスピルバーグも絶賛しました。しかし肝心の中身はそれに値しないといえるでしょう。
映画の大ヒットの最大の原動力はアメリカン・ドリーム的なものにあったのではないでしょうか。
数人による手作り映画が、大手スタジオによる大バジェット映画を打ち負かす。
多くの人はそういうストーリーを作りたくて口コミでこの映画の評判を上げ、そして劇場に行ったのではないでしょうか。
この映画は約10年に渡ってシリーズ製作されました。しかしすべてはそのときだけ盛り上がる一種のイベント映画だったのではないでしょうか。
『パラノーマル・アクティビティ』は何よりも「君もやれば何だってできるんだ」というアメリカン・ドリーム的なメッセージを残しました。