須賀は時々結婚指輪をさわったり、不意に涙を流したりします。そこには天気の巫女だった妻に対する後悔があります。

少年らしい純真さにあふれた帆高に対し須賀はクールな中年です。一見、自由人ですがその実は自分を押し殺し世間に歩調を合わせています。

須賀は若い頃からそうだったのではないでしょうか。そのため奥さんが天気の巫女になったことも信じなかったと考えられます。

彼がそれを信じたのは実際に奥さんがいなくなり、長い雨季に入ってからのことではないでしょうか。

そこで妻の言葉を信じていれば、彼女を救うことができたのにという後悔が生まれたのだと考えられます。

彼がオカルト雑誌を始めたのもその罪滅ぼしだったのかもしれません。そしてその後悔は警官から帆高を助ける熱意にもつながりました。

そして帆高が最後に陽菜を救う決断をしたのも、須賀のその熱い思いに応えたいという思いがあってのことだとも読めます。

裏設定とは何なのか?

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映画にとって裏設定がどういうものなのかについて考えます。

一定の支持があれば真実になる裏設定

映画の裏設定で一番に思い浮かぶのが『となりのトトロ』です。映画の後半、すでにサツキとメイは死んでいるというあの有名な都市伝説です。

宮崎駿監督は態度を明らかにしていませんが、製作サイドはそれを完全否定しています。

しかし多くの人はそれでもその裏設定を信じました。なぜならその説明が映画の筋や設定に細かく符合しているからです。

崖の上のポニョ』では映画の中盤以降が明らかに死後の世界を思わせる展開になりました。

そこで世間ではトトロの裏設定がバレたことで、宮崎監督が開き直ってポニョでそれを明白にしたのだといわれました。

いずれにせよ裏設定というのは、一定の支持があれば1つの真実になります。

そもそも表現とはアーティストが手放したときに受け手のものになるのです。

『天気の子』の裏設定にしても、すでに1つの真実になっているといえます。

裏設定の豊かさとは無関係な作品の質

裏設定の豊かさによって本作は特にネット上でかなり絶賛されています。

しかし隠されたストーリーがあるからといって、その作品が一級品だとは限りません。

ここまで書いたような本作の裏設定を知ったとしても、その視点で映画を楽しめるのは数回程度でしょう。

『天気の子』は観るたびに発見がある細部の細部まで作りこまれた映画でもあります。そこには前作の『君の名は。』とのリンクまであるのです。

しかしそういう緻密さは映画の本質にはほとんど関係ありません。『となりのトトロ』が傑作なのは普通に観ても充分楽しめる作品だからです。

『天気の子』が後世に残る傑作になるのか、ただ作りこまれただけの凡作になるのか。いつか年月がそれを教えてくれるでしょう。

現代人の心をつかむライトノベルの世界観

小説 天気の子 (角川文庫)

新海誠監督はライトノベル・いわゆるラノベの作家活動もしています。本作にもラノベの原作があります。

そして新海監督の映画自身も非常にラノベ的です。そこに新海作品の人気の大きな要因があるのではないでしょうか。

『君の膵臓をたべたい』などに見られるよう、ラノベの中核にはボーイミーツガールがあります。

少年少女のロマンスが思い切り神秘化されているのです。2人の愛があればこの世界だって救われる。