2014年から2019年にかけて放映されたTVシリーズ『GOTHAM/ゴッサム』でジョーカーを演じたのがキャメロン・モナハンです。
ドラマはバットマン登場以前のゴッサムシティを舞台にしています。そのためジョーカーのパートもそのオリジン・出生話でした。
その点で、2019年製作の『ジョーカー』とも共通しています。しかし本作ではジョーカーは双子のヴァレスカ兄弟として登場しました。
キャメロンがジェロームとジェレマイアを1人2役で演じているのです。
ジョーカーが2人、しかも兄弟同士で争う設定であり、まさに毒をもって毒を制す展開になります。
またジョーカーの科学者としての才能が披露されているのも新鮮な点です。
死から甦ることもあって、見た目はほとんどゾンビやフランケンシュタインを思わせるものでした。
キャメロンのジョーカーは一見恐ろしく狂気につかれた面もあります。しかしその中身はサービス満点のピエロのようです。
人気悪役キャラとしてファンにさまざまな顔を見せて楽しませる。そんなジョーカーが物語にアメコミ感をたっぷりと与えています。
ホアキン・フェニックス:名もなき街の道化師
バットマン誕生80周年にあたる2019年に作られた映画『ジョーカー』でジョーカーを演じたのがホアキン・フェニックスでした。
精神病を伴う純真無垢な中年男が世間に汚されるうちにジョーカーになるというのが大筋です。
しかしこれは何より1人のサイコパスを軸にした痛切な人間ドラマです。
ホアキンはバットマン史上・最もコミック色のない生身のジョーカーを演じたといえるでしょう。
彼が変身したのはジョーカーではなく1人の名もなき街の道化師だったともいえます。これは純真さゆえに狂気に陥ったピエロの物語なのです。
ホアキンのジョーカーの狂気は、その生身のリアルさゆえに私たちの心に直接訴えかけてきます。
こんなひどい世の中では狂気に陥らない方が狂気なのではないか。ホアキンの真に迫った演技は観るものをそんな気分にもさせるでしょう。
そしてそれは暴力を賛美するこの倒錯的な物語の原動力になっていました。
善悪の境界を揺さぶり続けるジョーカー
ジョーカーとはそもそも何者なのでしょうか。ジョーカーを語る上でバットマンの存在は欠かせません。
2人はよく表裏一体の関係だといわれます。ジョーカーが悪でバットマンは善。しかしことはそう単純ではありません。
2人の善悪が入れ替わることがあるからです。そしてジョーカーの中の悪が社会に拡散することもあります。
『ダークナイト』の中、ジョーカーはバットマンを始めとしたゴッサムシティの市民の倫理観を試す実験を何度も行いました。
それはジョーカーの草案者である3人がジョーカーに託した本質的な役割とも合致します。ジョーカーとは人の正義感をテストする存在なのです。
警察署での取調べの際、バットマンは逮捕したジョーカーをひどく痛めつけます。そこでバットマン自身もジョーカーと人格がスイッチしました。
ジョーカーとは本質的に人の中の善悪の境界線をゆるがし、時には切断する存在なのではないでしょうか。
『ダークナイト』の中、ジョーカーはバットマンに「お前は俺を完璧な存在にする」と言いました。それは真実を突いています。
裏を返せばバットマンがジョーカーを殺したら彼は完璧ではなくなるのです。
バットマンの登場から80年、ジョーカーは今もまだ人々の正義感をテストし続けています。