この条件にピッタリ当てはまる人物はサリンジャーです。
作中でも作家テレンス・マンは『ライ麦畑でつかまえて』に関するような台詞を残しています。
隠遁したテレンスは、執筆活動からも引退しています。
これはサリンジャーの経歴にも重なる部分です。
幻の作家がふたたび筆を執る
原作者がサリンジャーを敬愛し、野球少年であった彼の過去を通じてその失望を野球の夢で救いたいという思いが伝わってきます。
そして、テレンスはこう話します。
「素晴らしい本が書ける。『シューレス・ジョーアイオワに来たる』」
引用:フィールド・オブ・ドリームス/配給会社:ユニバーサル・スタジオ
断筆状態だった作家に筆を執らせるという夢の実現です。
この声は、原作者が込めた夢の声なのかもしれません。
3つ目の声
テレンスと野球を観戦するレイは、次の言葉を聞きます。
「Go the distance(最後までやり遂げろ)」
引用:フィールド・オブ・ドリームス/配給会社:ユニバーサル・スタジオ
というものです。
ムーンライト・グラハム
この3つ目のお告げに深く関連してくるのが、ムーンライト・グラハムです。
ムーンライト・グラハムも実在していた野球選手。そして、生前は医師もしていました。
作中では、老いた医師の幽霊として医師として登場したグラハム。
レイの娘を治療すると若返ってシューレス・ジョーたちとプレイして去っていきましたね。
一試合だけの選手
ムーンライト・グラハムは、名門ニューヨーク・ヤンキースの選手として登録され、わずか一試合だけ出場して引退しました。
打席に立たないままその試合を終えることになる。彼のジャイアンツでの出場試合は結局この1試合のみで、メジャーリーグでの経歴を『打席なし』のまま終えることになった。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ムーンライト・グラハム
8回裏に交代してライトの守備につき、打席が回ってくる前に試合終了。
その後、引退して開業医として87歳の生涯を閉じます。
この異色の経歴に注目した原作者のキンセラが作中に登場させ、彼の野球選手としての夢を叶えたわけです。
一度もメジャーリーグの打席に立ったことのない選手を打席に立たせ、一度は諦めたムーンライト・グラハムの夢を叶えました。
父親との和解
この映画のクライマックスは、最後に球場に現れたレイの父親ジョン・キンセラとのキャッチボールをするシーンを迎えます。
キャッチボールが象徴するもの
父ジョンもまた、12年間マイナーリーグでキャッチャーをしていた野球選手です。
レイが家を飛び出してから、ずっと会うこともなく亡くなってしまいました。
つまり、この親子にとって「キャッチボールをする」というのは、とても特別なことであることが分かります。
キャッチボールは、言葉を交わさずともボールを投げ、受け取るだけで通じ合うものがあるといえるでしょう。
親子のあり方
父と子の関係は、父親が息子を保護し、育成するという関係にあります。
しかし、それは同時に支配でもあり、息子もまたその支配に反発し、自立を目指します。
ですが、自立したのち、いつかは和解するものです。
かつて父に反発した息子は、いつか自分が父となり、そして息子の反発を理解し、父親となったことを分かち合います。
レイの心残りであった父親との関係も、野球を通じて修復されたのです。
謎の声の正体
作中、謎の声が何なのかは説明されません。
一体、この声は何でしょうか?