その息子が外の世界へ出て行ったのには、どんな意味があるのでしょう。
外の世界への意識
息子が出て行くことを決意するのは、大津波のあと。大事にしていたガラスの瓶を再発見してからです。
そのガラス瓶は島の外から来たものです。男が砂に絵を描き、外の世界について教えている描写もありました。
息子には、島の外への憧れが徐々に芽生えていたと想像できます。
津波=外からの力により世界が一変する経験を経て、外界への意識がより強くなったのかもしれません。
父から子へ 引き継がれた役割
同時に、息子が島を出ることは、その役割が父から子へと完全に引き継がれたことを意味しています。
脱出者として、父として。役目を終えた男は、そうして死ぬのです。
いのちの物語
こうしてみると、この作品は無人島にやってきた男が新しい人生を始め、そして終わるまでの物語と考えることが出来ます。
繰り返す生命
息子を見送った後、男と女は浜辺でダンスをします。夫婦という役割から、一組の男女に戻ったことの表れです。
子は大人へ、大人は親へ。親は男女に戻り、そして命を終えます。ここに描かれているのは、一つの生命のサイクルです。
男の死を看取った女もまた、亀に戻り海へと帰っていきます。これも女として、妻としての役割を終えたからです。
これらはただ普遍的な生命の営みであり、外からの意味付けは必要ありません。
物語が象徴的に描かれていた理由は、こうして帰結します。
無人島という自然を凝縮した舞台で描かれるのは、生命の縮図なのです。
委ねられた物語
この物語では、生と死の境界が非常に曖昧です。
三度目の脱出に失敗し、竹林に倒れ伏した男の体には虫が這っていました。
直後に亀も生まれ変わるため、ここをポイントに生と死が交じり合ったのかもしれません。
そもそも何も持たず流れ着いたこの島が、死後の世界だったという解釈もできます。
それでも、安らかに眠るように死んだ男に寄り添う存在があったことは救いです。
島での出来事は、力尽きた男に亀が見せた、優しい夢だったのかもしれません。
流されて着いてしまった場所だけど、こんな人生も悪くなかった。
そう思えたなら、ハッピーエンドと言ってもいいのではないか。そんなメッセージを感じずにはいられません。
男がこの島で為したのはただ生きること、その象徴。
男の生に、いのちに、どんな意味を見出すのかは、観る人自身に委ねられているのです。