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映画『オーバー・フェンス』は佐藤泰志の原作小説を2016年に山下敦弘監督が実写化した作品です。
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」最終章という位置付けになっています。
主演のオダギリジョーと蒼井優を中心に撮影の近藤龍人や脇の松田翔太・満島真之介など充実した戦力です。
物語は人生前途多難の白岩義男が函館の職業訓練校で田村聡という女性と出会うところから始まります。
お互いを傷つけ合う形でしか愛を表現できない2人のリアルな恋愛描写が見所です。
本稿では義男がホームランを打てた理由をネタバレ込みで考察していきましょう。
また聡が遊園地で鳥の求愛を真似した理由や動物の檻を開けた意味も併せて見ていきます。
時代が求めた”異端児”の物語
本作を考察していく上でまず欠かせないのは佐藤泰志の小説が再評価されるようになった理由です。
『海炭市叙景』も『そこのみにて光輝く』も当時は三島由紀夫賞へのノミネートを果たしたものの受賞には至っていません。
非常に不遇で余りにも早熟過ぎた作家・佐藤泰志が再評価されているのは彼が“異端児”だからではないでしょうか。
本作では職業訓練校で出会う白岩義男と田村聡を中心に社会的弱者の葛藤に焦点を当てた物語が描かれています。
「壊す男」と「壊れた女」という2人の異端児が紡ぎ出す物語は実にリアルで痛々しいものです。
それが注目されるようになったということは時代が異端児を求めている証かもしれません。
佐藤泰志自身の投影が色濃く出た本作が何を伝えてくれるのかを見ていきましょう。
ホームランを打てた理由
本作のラストは紆余曲折を経て立ち直った白岩義男のホームランによって綺麗に締めくくられています。
2ストライクでもう後がないという状況で追い込まれた所から奇跡の逆転劇となりました。
ここではその理由について考察していきましょう。
約束
このホームランが成立したのは白岩と聡がホームランを打つことを“約束”したからでした。
この「約束」という言葉が実は本作を読み解く上で非常に重要なキーワードです。
人と人とが信頼し合って生きていくことは約束を守るという前提の元に成り立っています。
1度約束したことには責任が生じ、その責任を全うしてこそ人として生きていけるのです。
白岩は「壊す男」ですが、1番に壊していたのは人と人との信頼、即ち「約束」でした。
だからこそ、聡との約束を守ることで過去のダメだった自分を払拭しようとしたのでしょう。
再出発へのブレイクスルー
2つ目の理由としてこのホームランは彼が1度壊した家庭への再出発をも意味するものです。
ここに至る前に白岩は元妻の洋子と再会して朗らかに近況報告を行うシーンがあります。
そこで自身が家庭を壊した代償として元妻から結婚指輪を返されてしまいました。
この時初めて白岩は自身が壊したものの重さを知り、それと向き合う決意をしたのでしょう。