そうした心の窮状を壊し突破する…正にブレイクスルーのホームランだったのです。
本質はあくまで「壊す男」
3つ目の理由として、白岩の本質はあくまで「壊す男」だからです。
一見ここで白岩の人柄が変わったようですが、本質は何も変わっていません。
その証拠に彼は洋子との再会の後、このように自身の半生を述懐しています。
俺は普通に働いて結婚して、子供を作って…そういう人間だと思っていたが全然違っていた。
引用:オーバー・フェンス/配給会社:東京テアトル、函館シネマアイリス
そう、白岩は自分を「普通」の人間だと思っていたけれど、本質はそうではなかったと気付くのです。
職業訓練校での日々や聡との交流の中で自身のそうした部分を受け入れるようになったのでしょう。
変わり者に囲まれて暮らす中で自身が異端児であることを認めることが白岩の課題でした。
その課題を見事に突破した彼の集大成がこのホームランに凝縮されています。
遊園地で鳥の求愛を真似した理由
本作で象徴的なシーンとして、遊園地で鳥の求愛を真似する聡の描写があります。
果たして何故彼女はここで白岩の目の前でこんなことをしたのでしょうか?
2人の関係性に着目しながら掘り下げていきましょう。
白岩への求愛
まず端的にここで描かれているのは聡の白岩に対する求愛のメタファーです。
彼女にとって白岩は初めて自分を水商売の人間だからと見下すことなく見てくれた男性でした。
そんな彼がキャバクラで働く代島の差し金だったとはいえ自身の昼の仕事を見に来てくれたのです。
ここまでされて聡が嬉しくない訳がなく、彼女の素直な気持ちがこの求愛に表わされています。
一面に散らばる白い羽根はそんな聡の心象風景となっているのです。
肉体関係の伏線
そしてこの求愛の真似はその後聡の部屋で描かれる白岩との肉体関係の伏線になっています。
2人はここで肉体関係を持つに至るのですが、決してそれは喜ばしいことではありません。
考えてもみて下さい、白岩はバツイチの無職で聡は夜の水商売に身を窶す人です。
しかも白岩に限らず代島や他の男性とも肉体関係に至ってしまう感情的な人なので始末に負えません。
こんな歪んだ異端児同士の関係性は夜の独白のシーンで一気に奈落の底に突き落とされ壊れるのです。
この落差へと繋げていくための意図した喜びのシーンだったのではないでしょうか。
白岩の潜在意識の具現化
3つ目に一連の流れを通して描かれているのが白岩の潜在意識の具現化だからではないでしょうか。
上記したように、白岩は自身をまともな人間だと思い込んでいながらも本質は「壊す男」でした。
そんな彼が聡という「壊れた女」との交流で自身の中にある致命的欠陥を自覚してしまうのです。
そう、聡は白岩がずっと押し殺してきたそういうまともではない部分を体現した人といえます。
2人は一見正反対のようでいて本質的に似た者同士だったことをこのシーンで示しているのです。
動物の檻を開けた意味
洋子との再会の後白岩は再び聡のいる遊園地へ向かいますが、彼女はそこで動物園の檻を開けます。
求愛の真似と併せて傍目には野蛮な奇行としか思われない聡のこの行動には何の意味があるのでしょうか?