ここでも、鬼との戦いというストーリーが、現実の親世代との対立も示していることがわかるのです。
なぜ父は物語を聞かせていた?
ではなぜ、父親モモタロー(声:江口洋介)は、この物語をココネに聞かせていたのでしょうか。
未来を「夢」見る若い技術者たち
駆け落ちしたイクミとモモタロー。小さな町工場でも、彼らは開発を続け自動操縦プログラムを完成させています。
このままでは海外からの技術革新によって、ハートランド国=シジマ自動車、ひいては日本の技術自体が危機に陥ってしまう。
これが、二人の頂いていた危機感だったのではないでしょうか。
だからこそ、技術者としてモモタローは、自分の娘であるココネにもそれを伝えようとしたのでしょう。亡くなったイクミの想いも含めて。
しかし国内外の技術競争などは、かなり難しい内容。そこで使われたのが物語なのです。
物語なら、事実そのままよりも子供には理解しやすいはず。親として娘に想いを伝える最大限の方法が、物語だったのです。
父なりのやり方
夢=モモタローの語るイクミの物語が原型となっていました。
口下手なモモタローが物語を作るのは得意なことではなかったはず。
そのため彼は、自分たちの物語を織り交ぜる=リンクさせることで物語を作り上げたのです。
人物は桃太郎をベースに、だから敵は鬼。安易と言えば安易ですが、娘を退屈させまいとするモモタローの人柄もわかります。
この物語は親としての確かな愛情から生まれたもの。だからこそココネは自然に受け入れることができたのでしょう。
現実とリンクする理由
ここで改めて、現実と夢がリンクしていた理由を考察します。
「ワタシ」とリンクする物語
東京に向かう新幹線の中、夢に関して象徴的なシーンがありました。夢の始まりで、ココネとエンシェンとが分離しているのです。
そしてエンシェンはイクミへ変化し、高層から落下。死のイメージです。
これによりココネが、ハートランド国と鬼=自動車技術の対立に関連することで母が亡くなったのを悟る展開です。
お父さん お母さんのこと
今までいーっぱい 話してくれとったんじゃなぁ引用:ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜/配給会社:ワーナー・ブラザース
夢の意味に気づき、あふれる思い出に涙を流すココネ。
これまで、自分=エンシェンとして物語を聞いていたココネは、ただ物語を追体験していただけでした。
それがこの夢により、母の想いと父なりのやり方に気付いたのです。
逆説的ですが、エンシェンとの同一視が断ち切られたことで、ココネは自分の視点を獲得したといえます。
タイトルの「知らないワタシ」とは、エンシェンを指すと同時に、ココネ自身の発見を意味するのでしょう。
幼い子供から自立した大人へ、ココネは一歩を踏み出したのです。