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映画『ジェシカ』はヒューマントラストシネマ渋谷の「未体験ゾーンの映画たち2020」で公開されたSF作品です。
監督はキャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル、主演をアオミ・ムヨックが務めています。
謎めいた女戦士ジェシカが孤児たちを抹殺せんと企む特殊部隊へ反旗を翻し孤児たちと共に戦う物語です。
一見冷たそうな彼女がオーファンに慈愛をもって向き合う姿は非常に美しさを感じさせるでしょう。
本稿ではそんなジェシカが最後に戦うことを選んだ理由をネタバレ込みで考察していきます。
また、ルカに妹の幻が見えた意味やカミーユに手紙で過去を告白した真意も併せて読み解きましょう。
愛を否定する物語
本作は表面上ジェシカと9人の孤児=オーファンが絆を形成していく物語のようですが、そうではありません。
普通の作品であったら、ジェシカを求心力としてまとまっていき、徐々に人生が好転していくでしょう。
しかし、本作は寧ろ話が進めば進む程どんどん孤児達の孤独は深まっていくばかりです。
後半に至って尚仲間の輪に加わらないルカや怪物に過ぎないと開き直るライデンにその傾向が強く出ています。
そう、孤独な者同士が徒党を組んで一致団結などという“絆”や”愛”に対するアンチテーゼが本作なのです。
そんな切なく悲しくも美しい本作が何を伝えてくれるのかを見ていきましょう。
最後に戦うことを選んだ理由
ジェシカを中心に構成されたオーファンはラストで特殊部隊と戦うことを決意します。
戦力差は明らかに特殊部隊が上であり、戦いに望めば死ぬことは本人達も心得ていました。
それでありながら何故棘の道を選んだのかを考察していきましょう。
社会的弱者から逃れられない
1つ目にジェシカをはじめ全員が社会的弱者から逃れられないということが挙げられます。
たとえ恋人や理解者が出来たとて、それが彼らの孤独を減じてくれることはありません。
ミカエルやルカ、ライデンらオルファン達はみな社会というレールから外れた人たちなのです。
そのレールから外れた所で孤独に生きるなど並大抵の精神力で出来ることではありません。
大枠の部分でジェシカたちはみな共通に社会から疎まれてきた人たちという大前提があります。
学生運動の再現
2つ目にこの戦いはいうなれば学生運動のSF映画的再現になっているからです。
終盤のシーンでカミーユに案内してもらった学校で火炎瓶をもって立て込む所にそれが出ています。
こんな風に集団で学校に立てこもって闘争などという風潮は今の時代殆ど見られません。
しかし奥底では社会的弱者として疎まれてきた孤児たちの潜在意識には闘争心が残っていました。
正に自分たちを疎み蔑んできた体制側に対する若者たちの心の叫びだったことが示されています。
でもそれをあくまでもジェシカを中心にして静かにスマートに描いているのが本作の魅力です。
個人の決断が重なった結果
ここにおいて大事なのはあくまでも孤児達は一致団結などしていないということです。
ジェシカを求心力としているようで、実は最後の決断は個人個人が下しています。
そして何よりジェシカ自身が強制や押しつけを嫌い、決して孤児たちの心に深入りしません。
ジュリアンの焼身自殺がそれを決定づけ、まとまりかけたチームワークが終盤で壊れてしまいます。