原作にとことん忠実でありながら変化したラストシーンは、原作の後味の悪さを払拭したかった監督の心理があったように感じられます。
存在した未来の可能性
ラストシーンで描かれた春花と妙子の思い出は、存在したかもしれない未来へと繋がっているように感じます。
これからも妙ちゃんに(髪を)切って欲しいな
引用:ミスミソウ/配給会社:ティ・ジョイ
という春花のセリフには、妙子との未来に対する願望が込められていました。
口約束ではあったものの、美容師になりたい妙子と春花は2人で東京に行くことを約束。
晄の存在が無ければ、2人の少女は何事もなく中学を卒業し共に手を取り合う未来を歩いていけたのでしょう。
晄が火事の中で撮影した理由とは
晄は春花を守る王子様のような存在として登場しますが、実はいじめや放火事件全ての元凶でもあります。
家庭環境で闇を抱えて育った晄は、表面上はまともに見えても拭えない歪みを抱えていました。
美しいものをカメラに収める反面、唯一の存在や普遍的なものに対して執着を見せるサイコパスな一面も持っていたのです。
火事の中での写真
晄は放火された家の中で、春花の妹:祥子を守るように抱き込む父親の姿(死体)を撮影していました。
死してなお子を守る父親の姿に晄は大きな衝撃を受け、衝動的にシャッター連射。
人の生死にかかわる場面でありながら、晄はそこに言葉では説明できないような新たな感情を抱いたのです。
DVな父を持った彼は幼少期から歪んでおり、家族の正しい愛情を受けて育ってはいません。
祖母からの愛情は受たものの、すでに歪んでいた彼はその愛情だけでは矯正できなかったのでしょう。
心の奥底が歪んでいた晄は、ものの一瞬の輝きを捕えるカメラを趣味にしていました。
彼にとって火事の中での1シーンは、植物が開花する瞬間を撮影するのと同じようなものだったのでしょう。
人間が燃える、生き物が散る瞬間を美と感じた彼は、衝動的にその瞬間をカメラに収めたのです。
死と暴力に対する執着
自分の思い通りに事が進まないと暴力で解決しようとする晄は、暴力を愛情表現の1つと捉えていました。
母親が父親の暴力を受けながらも彼を必要としたことから、晄は暴力も愛情だと思い込んでしまったのかもしれません。
放火事件の中で本物の死体を目にした晄は死体に対して密かな愉悦を感じました。
だからこそ、死にかけた春花の写真を撮影したり、火事の死体写真を持ち歩いたりしたのでしょう。
彼にとっての写真は、自身の欲求を満たす自己顕示欲の表れだったのかもしれません。
南先生が妙子を友達といった理由
流美:先生にとって…妙ちゃんは何なんですか?
南:何って…「友達」よ。なんで?
引用:ミスミソウ/配給会社:ティ・ジョイ
生徒をなんとも思わない南先生ですが、妙子だけは友人と呼び特別扱いをしていました。
いじめられている生徒には興味も対応も示さない彼女が、なぜ妙子だけを「友達」と明言したのでしょうか。
いじめられっ子の性
南京子(森田亜紀)は学生時代いじめられっ子だった過去をもっていました。
彼女の中でトラウマとなったいじめは根深く残り、いじめを回避しようとする本能を発揮。
教師という立場になってもクラスのカーストを意識し、中心人物に媚びる行動をとったのです。