人間、喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物で、時が経てば災害の痛みなど忘れてしまいがちです。
元々嫌な記憶は忘れように出来ているので、それがいいところでも悪いところでもあります。
それに、廃炉になったとはいえ、福島原発の問題は未解決の部分を沢山残したままでした。
吉田は何よりも人々の記憶からそれが忘れ去られてしまうのが怖かったのではないでしょうか。
だからこそ、遺された伊崎は吉田の思いを受け止めて、語り継いでいく必要があるのです。
そして同時に本作をご覧になった受け手への手紙でもあると推測されます。
遥香の励ましが与えた影響
伊崎にはひとり娘の遥香がいて、結婚反対を機にやや不仲に近い時期がありました。
そんな遥香に初めて震災後お詫びのメールをしたところ、励ましの返事が来ます。
果たしてその励ましは父にどのような影響を与えたのでしょうか?
何が何でも生きて帰る
まず1つ目に、伊崎父は何が何でも娘達家族の元に帰ろうと決意したのでしょう。
終盤では50名を除いて近隣住民を全員避難させるという決断を吉田が下します。
最悪の状況であり、下手すれば原発諸共死ぬかも知れなかったのです。
伊崎のみならず、他の作業員達もその覚悟で家族と最後のやり取りをしていました。
それが娘からの励ましで、生きて帰るという方向へ進んだのでしょう。
それ位遥香の存在が非常に大きかったことを意味しています。
不仲の解消
2つ目に、ずっと不仲が続いていた親子の関係が解消されたことです。
伊崎父も娘の遥香も決してお互いを嫌っていたわけではありません。
本当に親が嫌いな子供、そしてまた子供を嫌いな親など居ないのです。
しかし、中々お互いの存在の有難味を実感する機会はないでしょう。
そこで、今回の原子炉の事故によって家族の存在が当たり前ではないと気付きます。
凝り固まっていた家族の仲が確実に快方へと向かい始めました。
前祝い
そして3つ目に、遥香の励ましのメールは1つの前祝いになったのではないでしょうか。
彼女は「ちゃんと顔を見て謝らないと許さない」と書きましたが、当然意味は反語です。
嫌っているわけじゃなく大好きだからこそ、戻ってきて欲しいと伝えました。
それが同時に原発事故を最悪の事態から回避させるに至ったのではないでしょうか。
後ろ向きのイメージではなく、前を向いて未来を生き抜くイメージが成功に繋がります。
何とか2号機の暴走は無事に止まり、願いはしっかり果たすことが出来ました。
米軍援助の真意
終盤ではその2号機の暴走を食い止める為に米軍からも支援が送られてきました。
彼らの助力もまた伊崎たち50人の作業員の支えになったことは間違いありません。
果たしてその真意はどこにあるでしょうか?