このラムスがそうであるように、よそ者であったイスラエルも時代とともにアラブに同化しつつあるのです。
そういう意味ではイスラエルのアイデンティティの在り方も変質しつつあるのかも知れません。
サラムに見るパレスチナのアイデンティティ
パレスチナの人たちのアイデンティティは今後どうなるのでしょうか。自分たちの国を建国することは出来るのでしょうか。
サラムたちは国家という既存の枠組みを持たない中で自己のアイデンティティを維持するという難題を突きつけられています。
この作品はそのような中でも自分自身の言葉と自己主張を持つことの重要性を訴えているようです。
国家であるイスラエルを武力で打倒することだけが彼らの未来ではないことをサラムの成長を通じて語っているのかも知れません。
「爆発的」という台詞
冒頭で素晴らしい女性を形容する言葉としての「爆発的」という表現にサラムは違和感を覚えます。
これが単なるヘブライ語の言語アドバイザーだったサラムを脚本家に向かわせる切っ掛けになるのです。
「爆発的」という表現は暴力を連想させる言葉です。サラムたちは最早暴力にうんざりしているのです。
ましてや女性の素晴らしさを表現する言葉としての「爆発的」はサラムにとって非常に違和感を感じてしまうのではないでしょうか。
コメディタッチの意味
この作品はコメディとして描かれています。その必然性を考察してみましょう。
イスラエルとパレスチナの抗争は大国も巻き込んで非常に複雑になっています。
何か画期的なアイデアや取り組みで何とかなるものではないのです。
この作品はチャップリンの多くの作品に見られるように、コメディの体裁を採りながら様々な問題を暗喩的に表現しています。
あまりにも取り扱う問題が重大で手に負えないときはこのような手法を採らざるを得ないのです。
【テルアビブ・オン・ファイア】は笑えないコメディ
この作品ではにんまりすることは出来ても笑い飛ばすことは出来ません。
どうしても作品が暗示しているパレスチナ問題に関心が向いてしまうからです。
これこそがこの作品の狙いともいえます。
地球の片隅で大国の思惑に翻弄されながら、それぞれのアイデンティティを確立したいとあがいている人々がいるのです。
暴力による報復の連鎖に解決の道がないことを若い世代の人たちは理解しつつあるのではないでしょうか。
【テルアビブ・オン・ファイア】は相互の同化による平和な未来を夢見たくなる素晴らしい作品といえます。