そしてそれは星野だけではなく他の誰かに起こっても、決しておかしくなかったともいえます。

心のリミットスイッチ

人は思春期に人間としての価値観を作り直すとされています。

幼少期人は親から何が許されて、何が許されないかの価値観や善悪の基準をすり込まれるのです。

いわばリミットとなるスイッチを親に設定され、そのリミットを超えようとするとスイッチが働いて行動を抑止することになります。

思春期にはそのリミットスイッチを設定し直す必要が生じるのです。

スイッチを設定中の過渡期には価値観や善悪の基準が曖昧になりますので、人は何ともいえなく不安感を持つことになります。

星野は沖縄での異常な体験によって死を非常に身近に感じてしまいました。

これによって彼の不安定なリミットスイッチは吹き飛んでしまったのではないでしょうか。

死という絶対的な真理を前にして、善悪の基準や価値観などどうでもよくなったのです。

札束を海にばらまいた理由

そうなれば金などは単なる印刷物に過ぎなくなります。

こんなもののためにあくせくすることが馬鹿らしく、金に執着する自分も捨て去りたくなったのです。

海に札束をばらまいたのは金に執着する自分に別れを告げる行為だったといえます。

リミットスイッチが壊れてしまった星野にとっては、タブーがなくなってしまいました。

何がどこまで許されるのかの判断が自分自身にもつかなくなってしまったのではないでしょうか。

殺される運命だったのか

そのような星野は自分で暴走を止めることが出来なくなりました。

番長を不登校に追いやったのも、雄一をいじめで追い込んだのも、久野をレイプしたのも全て限界を確認するためだったのです。

彼は苦しかったに違いありません。なにせ生きるより所がないのですから。

彼は誰かに自分を止めて欲しかったのです。リミットスイッチの場所を教えて欲しかったともいえます。

雄一は単に恨み辛みで星野を刺したわけではありませんでした。

星野の痛みや望みを何となく気づいていたのではないでしょうか。

リリイのコンサート会場で星野が青猫だと気づいた雄一は、星野のリミットスイッチを押してやることにしたのです。

津田と久野

リリイ・シュシュのすべてリリイ・シュシュトラック 『アルベスク』
津田と久野はどちらも星野たちの餌食になり、弱みを握られて上で売春を強要される立場に追い込まれます。

しかしながら、これに対する二人の反応は大きく分かれました。

一人は女の子であることを捨て、もう一人は生きることを捨てる選択をしたのです。

津田が自殺したわけ

津田にはこの年代の多くの女の子が持つ汚れに対する強い潔癖感がありました。

星野たちに強要されつつも、援助交際で得られる金銭的な魅力に惹かれる自分に我慢が出来なかったのです。