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さまざまな意味で多くの世界に波紋を広げた問題作であり名作中の名作映画でもあるのが1995年のハリウッド映画、セブンでしょう。
主演二人の演技はもちろん、ハリウッド大作とは思えないほど非常にダークな世界観を持ち、独特の映像美も魅力的なこの作品。
物語は「七つの大罪」をモチーフに殺人事件が繰り広げられ、それを老刑事と若い新人刑事が追うサイコ・サスペンスです。
しかしその衝撃的なラストは波紋を呼び、またさまざまな憶測を呼んだものでもありました。
この映画のラストを映画史上に残るものにしたのは、そこに至るまでに映画内で繰り広げた数々の殺人事件。
ここではその劇中の殺人事件と七つの大罪との関係性との説明、そしてこの七つの大罪の存在がラストシーンに大きな意味を持たせ、これほどまでにこの映画を名作たらしめることになったのかを解説します。
「七つの大罪」とは何か
この映画を理解する上で、この「七つの大罪」の概念を理解しておく必要があります。
キリスト教の教義
日本においてこの七つの大罪という言葉は大ヒットした同名のアニメ、マンガのタイトルとして認識されているかもしれませんが、七つの大罪はキリスト教における重要な教義のうちのひとつです。
キリスト教圏であるアメリカではその内容はよく浸透しているでしょう。
キリスト教においては旧約聖書、新約聖書が聖典とされていますが、実はこの二つの聖書の中には七つの大罪は明確に描写されていません。
七つの大罪が初めて登場するのは4世紀ごろ。
エジプトの修道士であるポントスのエウァグリオスの著作にある、誘惑や困難を引き起こす「八つの人間一般の概念(八つの枢要罪)」が七つの大罪のもとになったといわれています。
この八つの人間一般の概念がローマ教皇・グレゴリウス一世の手によって七つの大罪へと見直され、すべての罪を引き起こす人間の欲望や感情と定義づけられました。
その七つの大罪とは、
高慢(Pride)、貪欲(Greed)、嫉妬(Envy)、怒り(Wrath)、色欲(Lust)、貧食(暴食)(Gluttony)、怠惰(Sloth)とされています。
もともとの八つの人間一般の概念にはこれに悲嘆(憂鬱)が組み込まれていたようです。
七つの大罪は英語で言うと「Seven deadly sins」。
直訳すると七つの死を呼ぶ罪、ということになりますが、確かにここで示された感情や欲望は突き詰めると身の破滅を呼ぶものであることがわかります。
劇中で紹介された文学作品
「セブン」を深く知るためには劇中で紹介された文学作品も理解しておけば、より掘り下げてこの物語を解釈できます。
ダンテ「神曲」
地獄篇、煉獄篇、天国篇の三部で構成される歴史的にも非常に重要な文学作品です。
特に地獄篇、煉獄篇の内容についてはキリスト教圏以外でもよく知られ、今日の一般的な地獄のイメージはこれらををもとにしているといわれています。
ダンテは地獄と煉獄では古代ローマの詩人ウェルギリウスを、天国篇では永遠の淑女ベアトリーチェに案内され地獄と煉獄、そして天国を旅することに。
地獄篇では日本の三途の川にあたるアケローン川や九つの階層に分かれた地獄の様子が描かれます。
煉獄篇では永遠に責め苦を受け続ける地獄とは違い、ここでは七つの大罪を犯したものが罪を贖い天国に行くための苦しみ、そして清めの場所として位置づけられています。
天国篇においてダンテは聖人と邂逅し、神の愛を知ることになるのです。
ミルトン「失楽園」
「失楽園」は旧約聖書の創世記をテーマにした壮大な叙事詩です。
旧約聖書の創世記の中には有名なアダムとイブが悪魔の誘惑に負けて禁断の果実を口にし、神に楽園を追われるエピソードがありますが、これを失楽園や楽園追放といいます。
この作品の中にも詳しく七つの大罪についての記載があり、天使が堕天使=悪魔になったいきさつなども学べる作品です。
チョーサー「カンタベリー物語」
カンタベリー大聖堂への巡礼の道すがら宿泊した宿で、止まっている人々が身分の貴賤を問わず語った物語をまとめた、という形式を取った物語集です。
話の内容は宗教的なものに限らずロマンスやちょっと下世話なお話、ポエムなどさまざま。この中の「牧師の話」において七つの大罪が語られています。
「セブン」で描かれる七つの大罪を象徴する殺人
劇中ではまず第一の殺人が月曜日に起こります。これは老刑事サマセットの定年退職一週間前のことでした。
タッグを組んだばかりばかリの血気盛んな若い刑事・ミルズとともに駆け付けた現場には異様な光景が広がっていました。
ここから恐ろしい連続殺人事件は始まったのです。
ここで起こった殺人と対応する七つの大罪の関係を整理してみましょう。
5つの殺人
サマセット退職の一週間前。驚くべきほどの肥満体の男性がスパゲッティに顔を突っ込んだ状態で死亡。脅されて、吐きながらも食べ続けることを強要された形跡あり。
・貪欲(Greed)(※映画内では強欲、と訳されていました)
私利私欲を貪る弁護士が自分の腹の肉を1ポンド切り取って変死。
・怠惰(Sloth)
一連の事件の犯人かと目された前科のある男性が薬物付け、さらに舌を噛みきり廃人同様の状態で発見される。命はあったが医師の話からはいずれは死ぬ、もしくは耐えがたい苦痛を味わい続けることになることが推測される。
・色欲(Lust)(※映画内では強欲、と訳されていました)
特注の道具を無関係の男性に使用させ娼婦の腹を切り割かせて殺害。
・高慢(Pride)
モデルの女性が鼻をそがれ、右手に電話、左手に睡眠薬を固定された状態で絶命されているのが見つかる。
被害者は殺されるに値する人物か
この5つの殺人は七つの大罪のそれぞれの罪に対応する、と犯人であるジョン・ドゥが感じた人がターゲットにされた、という印象です。