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コメディタッチな群像劇に定評のある三谷幸喜監督。
そんな三谷監督の長編映画4作品目となったのが、2008年公開の『ザ・マジックアワー』。
映画撮影と騙されて殺し屋役を引き受けた売れない役者が、ギャングの世界のいざこざに巻き込まれていく。
そんな突拍子もない筋書きを、主演の佐藤浩市をはじめ三谷作品ではおなじみの豪華キャストがコミカルに演じています。
三谷幸喜らしい笑いのセンスと、どこかオールドファッションな雰囲気の魅力あふれた今作を考察していきます。
映画をメタ的に描いた作品である
主人公は、映画の世界に憧れ続けるもなかなか芽の出ない役者、村田。
そして主な舞台となる守加護は、映画のセットのような街並みでCMなどの撮影によく使用されているという設定。
『ザ・マジックアワー』は、作中で映画というモチーフを扱う、メタ的な作品でもあります。
それではこの作品にとって、映画とはまずどのような存在なのでしょうか。
名作へのオマージュ
作中にはしばしば、名作映画へのオマージュととれるものが登場します。
例えば、深津絵里が演じるマリが三日月に腰かけて歌うシーンは、ウディ・アレン監督の『ギター弾きの恋』。
西田敏行扮する天塩のビジュアルは、『ゴッドファーザー』に登場するマフィアのドンを彷彿とさせます。
さらに映画のエンドロールには、次のようなテロップが。
「市川崑監督の思い出に」
出典:ザ・マジックアワー/配給会社:東宝
市川崑は、『ビルマの竪琴』やドキュメンタリー映画『東京オリンピック』などで知られる映画監督です。
2008年に亡くなった市川監督ですが、彼の最後の映画出演作品がこの『ザ・マジックアワー』となりました。
また、作中には劇中劇として何本か映画のシーンが挟まれますが、いずれも同監督の作品のパロディです。
映画好きなら思わずクスリと笑ってしまう小ネタが満載の本作。
映画そのものへの愛に満ちた作品とも言えます。
村田にとっての憧れ
主人公の村田にとっての映画とは生涯追い続ける夢の世界です。
子どもの頃に観た『暗黒街の用心棒』の主演の姿に憧れ、芽の出ない中でも役者の道を歩み続けてきました。
彼の目標は、いつの日か大きなスクリーンに役を演じる自身の姿が映し出されること。
ただ役者をやりたいわけではなく、あくまでも映画への出演にこだわり、純粋に映画づくりを愛しています。
映画が持つ力
ニセ映画の撮影と知らず、演技に全力を尽くす村田。
その大げさな演技と、彼が役者だと知らないギャングたちとのちぐはぐなやり取りは観客の笑いを誘います。
しかし同時に、その演技がギャングの世界ではなぜかうまく功を奏しているのが面白いところ。
そして村田が再び備後らに協力するきっかけこそ、映画。映画館のスクリーンに映る自分の姿でした。
村田の映画にかける情熱は空回りしがちですが、結果的に彼や周囲の人を救い、物語の原動力となっています。
なぜデラ富樫を撃退できたのか?
さて、『ザ・マジックアワー』が映画そのものへの愛を描いていることを踏まえ、物語を考察していきます。
まず、どうして村田たちは本物の殺し屋デラ富樫を撃退することができたのでしょうか。
現れた“幻”
デラ富樫の正体は最後の最後まで明かされません。
ヴェールに包まれたその存在はまさに幻。
中盤で手元のみ登場しますが、そのときまで実在するのかどうかすらもはっきりとはしていません。