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映画【ラストレター】は一夏の物語ですが、過去と現在が入り乱れた形で展開されます。
一人二役の広瀬すずと森七菜を始め豪華キャストも話題になりました。
未咲という一人の女性の死が物語の軸になっています。彼女と関わりのある人たちの時間が止まり、そして動き出す物語です。
デジタル化が進む中で、手紙というアナログ的なコミュニケーション手段を使っていることが物語の中で重要なポイントになっています。
人は死んでも誰かがその人を思い続けていれば本当の意味で死んだことにはならないということを信じたくなるような作品です。
動き始めた時間
この物語では未咲に関わる人たちが、それぞれ何らかのわだかまりを持って生きています。
みんなある地点から前に進めなくなっているのです。
未咲の死と彼女の死が切っ掛けとなった幾つかの巡り会いによって、これらの止まった時間が未来に向けて動き始めることなります。
乙坂
人は輝かしい青春時代に抱いた異性への思いを、これほどまでに愛しみ続けられるものなのでしょうか。
乙坂は未咲の代わりに同窓会に来た裕里を彼女とわかっていました。
未咲になり代わって乙坂と文通を続ける裕里のことも当然わかったうえで文通を続けていたのです。
彼がわかったうえで裕里と文通を続けたのは、また未咲に会えるのではないかという期待があったからではないでしょうか。
彼の思いが結局未咲に届かないのは、高校生のとき裕里を通じて渡そうとしたラブレターが直ぐには未咲に届かなかったのと重なります。
彼が書いた小説「未咲」は未咲へのラストレターだったのかも知れません。
彼の時間はそこで止まっていました。未咲を思い切ることも小説「未咲」の次回作を書くことも出来ないでいたのです。
しかし、彼の未咲への手紙は結局彼女の大事な宝物となり、小説「未咲」も未咲と関係する人たちによって受け入れられていました。
乙坂は過去の思い出への一夏の旅によって未来へ歩み出すことが出来るようになったのです。
裕里
裕里もまた乙坂に抱いていた淡い片思いの記憶から抜け出せないでいました。
夫や娘との穏やかな生活の中で、その記憶はどんどん発酵していたのです。
彼女が未咲を装って同窓会に出席したのは、そこで乙坂に会えるかも知れないという淡い期待があったからでしょう。
乙坂との文通は、たとえそれが未咲を装ったものであったとしても、裕里にとって心躍るものでした。
彼女の時間は高校生のとき乙坂に告白したときから止まっていたのかも知れません。
乙坂が一夏の旅によって未咲への呪縛から解放されたことを知って、彼女の時間もまた未来へ動き始めました。
颯香と鮎美
颯香と鮎美はかつて乙坂や裕里、未咲がそうであったように青春のど真ん中にいます。
でも颯香は隣の席の彼に淡い思いを抱いたまま自分を持て余していました。一歩も前に進めなくなっていたのです。
鮎美も阿藤によるDVのトラウマを抱え、母親である未咲と乙坂とのすれ違いを昇華できないままたたずんでいました。